認知症と精神科医療

認知症を疑われる方は、長年通院しておられる内科などの先生に多くご相談されているでしょうが、私たち精神科の医師のところにも来られます。これは私たちにとっての話題なのですが、WHO(ダブリューエイチオー、世界保健機関)が、ICDという、あらゆる病気を分類した事典のようなものを改定中です。このICDという分類は、とくに精神科の患者さんの場合、保健福祉の制度を利用する際に、何番に当たる病気なのかを書かないといけません。そしてこれまで、認知症は、大きく分けて、精神科の分類にも、神経内科の分類にも入っていたのを、神経内科の分類だけに入れるという動きがあります。そして私たち精神科の医師の学会である、「日本精神神経学会」は、それに反対して、今まで通り、両方の分類に入れるようにと求めています。

神経内科の分類に入る病気は、脳神経によくない状態が起きるものです。よく知られたものでは、パーキンソン病、てんかん、脳性まひ、筋萎縮性側索硬化症などがあります。そして認知症も、そうした脳神経の変化で生じる問題で、神経内科の先生方は、すぐれたお仕事をされています。そして何科の先生であっても、長年患者さんにかかりつけ医として関わってこられて、その人たちのことをよくご存じの先生であれば、よく対応にあたられています。ただ、実際に、認知症で本人や家族が困ってくることに、心理社会的な範囲の問題があります。単に物忘れがひどくなっただけでなく、急に不機嫌になった、性格が変わった、徘徊しだしたといった、精神と行動の問題があり、精神科の医師の果たす役割があるのだろうと思います。実際には、かなり進んだ段階になって、精神科を訪れる方々が、少なくありません。

進んだ段階になった認知症を患われると、ほとんどの精神科の病気と異なり、患者さんのお話を聞きお気持ちを理解したり、こちらから話しかけて何かを感じていただいたりすることは、ほとんどできなくなります。そして何か困った言動や行動をされるようになっていたら、そのためにお薬を処方することがあります。また、介護認定が必要になると、意見書を書くこともあります。これらはすべて、患者さんお一人お一人にとって、何が必要かを考えてのことです。

現在、ほとんどの精神疾患は、脳神経系にそもそもの原因があると考えられています。そのなかで、1)うつ病や不安症、2)統合失調症、3)認知症、4)てんかんという4つの病気を例にとると、前者であるほど、心理的社会的な問題への対応の必要性が強く、後者にいくほど、脳神経的なそもそもの問題への対応の必要性が強いといえます。これらの疾患のいずれも、精神科の医師は関わってきましたが、時代の変化とともに、発達に関わることなど、これまでめだたなかったさまざまな問題が起きています。精神科の医師に求められる課題はますます多様になっています。そして私はこれからも、研鑽に努めていきます。